都知事選―石丸現象と社会の変容 (LIN-Net世話人 世田谷区長 保坂展人)

 

LIN-Net世話人 世田谷区長 保坂展人

 
東京都知事選挙が終わり、「石丸現象」が大きく話題になった。石丸陣営の選対事務局長・参謀としてメディアに登場した藤川晋之助とは、昨年春に私自身がたたかった相手候補の仕掛け人であり、参謀でもあった。石丸氏に対して「細かい政策をまったく言わないことだった。自己紹介を言い続けた。『小さな問題はどうでもいいんだ』といって『政治を正すんだ』という話をずっとやり続けた。それでも来る人の8・9割は『すごい』と言って帰っていく」とインタビューで述べている。政治学者の宇野重規氏は「政治不信が背景にあり、政策で勝負しても仕方がないというムードをこれまでの政治がつくってしまった。そこを YouTubeなどで無党派層に働きかけたのが石丸氏」と分析する。(7月25日朝日新聞『論壇』)
 世田谷区長選の時は、建設中の新庁舎をめぐって「400億かゼロか」という単純化したキャンペーンを相手陣営は各個配布のチラシや、オートコールの電話、YouTubeを使って徹底的に展開した。現職区長の方針では400億の支出が、挑戦者がやれば支出ゼロになるというもので、相手候補の主張は、私たちの側の建築家や専門家の分析で完膚なきまでに退けた。明らかなフェイクだが、先方はかまわず物量作戦で宣伝した。残念ながらかなりの「効果」があったことは認めざるをえない。
 今回の都知事選挙は、多くの「選挙の常識」を覆した。それは、テレビや新聞にまったく接することなく、YouTubeを見て過ごす時間が多い人たちが激増した社会の変容がもたらしたものだ。「スーパー知名度がないと得票出来ない」「ネット選挙は補完的な作用」などの認識は過去のものとなった。一方で、「コモンの再生」「民主主義の再構築」に向けたSNS戦略が問われている時代に入っている。デジタル・デモクラシーの力をつけていく必要があると強く思う。