都知事選が問いかけること(杉並区長 岸本聡子、世田谷区長 保坂展人、多摩市長 阿部裕行から)
いよいよ7月7日は東京都都知事選挙。
今回の都知事選について、杉並区長 岸本聡子、世田谷区長 保坂展人、多摩市長 阿部裕行の3人の首長からの問いかけを掲載します。
私たちが動く、政治が変わる。~都知事選に期待すること~
LIN-Net世話人 杉並区長 岸本聡子

7月7日の七夕は都知事選。私は告示までは、有権者が主役の選挙、投票率を77%にしようと杉並区内で一人街宣を行ってきました。
この間、候補者の単独、共同記者会見に続き、公開討論会が数回ありました。私はそれらを見たり、公約を読み込んで、この都知事選がますます重要だと思い至りました。これまでの成果を引き継ぎながら、リーダーは未来を指向し、民主的なやり方で議論を尽くし、少しづつ修正をしながら、新しい道をつくっていく。その意義と責任は、私自身がチャレンジャーとして区長になったのでよくわかります。
蓮舫さんが経済政策として若者、働く人の労働の在り方に切り込んだことは率直にすごいと、思いました。
働く人の約4割が非正規の不安定雇用で将来に不安を持ちながら生活しています。ここには非正規の公務員も含まれます。有期雇用ではキャリア形成もままならず、ジェンダー平等の取組が遅れている日本では、とりわけ女性の非正規化が顕著であり、こうした中で、結婚をためらい、子どもをあきらめる若者、女性が増加することは当然です。
蓮舫さんは二人に一人の若者が平均310万の奨学金の返済の重荷を抱えて社会にでることを課題と捉えています。そして具体的に保育・教育・介護・医療の現場で働く人の奨学金の返済の肩代わりを提案します。エッセンシャルワーカーであり専門職の人たちが安心して生涯仕事を続けられる社会。若者政策か高齢者政策かという選択ではなく、公共サービスをになう人を守ることが、都民のいのちを守ることにつながります。「東京都の非正規職員を、専門職から順次正規化するなどの処遇改善を進める」と蓮舫さんは公約の中で示しています。この意味は大きいです。
これをさらに一歩広げるのが自治体が民間と契約を行う際に適用される公契約条例です。公契約は公正で活力ある経済をつくっていくための自治体が持てる大きな武器であり、持続可能で公正な経済の礎です。蓮舫さんは、公契約を活用して働く人たちの待遇改善を行うと言っています。東京都でもぜひ頑張ってほしいです。
蓮舫さんは「明治神宮外苑の再開発」は争点であると言います。私もそう思います。東京都が事業主体でないとしても、東京都の未来を都民や世界に示す分岐点。何を大切にする都市なのかが外苑の問題に象徴的に著されているからです。NYでは100万本、パリでも17万規模の目標で樹木を植えようと舵を切ったのは、気候変動を根源的な危機と捉えているからであり、熱波や汚染を逃れてLIVABLE CITY<生きられる都市>でなくてはならないという危機感からです。東京の各所でデベロッパーを優遇した「再開発」が、かつてない規模で拡大しています。多くの自治体でトップダウンの住民不在の再開発が進んでいます。私は首長として住民と話し合い、財政的、社会的、環境的に合理的な選択をしなければならないと思っています。樹木は都市住民にとって貴重なコモン(社会的共通資本)です。東京都の選択は、他の自治体の未来にも大きく影響します。私企業による利潤目的の「再開発」ではなく、対話による合意形成の道をひらいてほしいです。
最後に、ジェンダー平等、性の多様性の尊重、こどもの権利、障害者の社会参画、国籍や民族が異なる人々と共に生きる共生社会の土台にあるのは人権です。個人の多様な生き方や在り方が尊重される首都東京の役割に期待します。
私たちが動く、政治が変わる。
いま、民主的なリーダーが東京都には求められています。
「新自由主義の末裔たち」と「コモン再生の仲間」が向き合う政治構造へ
LIN-Net世話人 世田谷区長 保坂展人

東京都知事選挙が最終盤を迎えている。
現職、小池知事は「公務」を理由に、選挙期間中の公開討論を回避し、挑戦者である蓮舫候補の追撃をかわす作戦に出ている。私は、選挙戦序盤の6月22日、三軒茶屋で蓮舫候補応援のマイクを握った。そこで、下北沢の再開発計画を修正し、住民参加の200回のワークショップを実現した世田谷区の例を示して、
「蓮舫さんには、都市再開発を一部の事業者との密室のやりとりから、住民参加の街づくり民主主義を回復してほしい」と呼びかけた。今回の争点は、ずばり「神宮外苑再開発」のあり方が象徴的だと考えたからだ。その後、蓮舫さんは神宮外苑を守る市民のミーティングに飛び入り参加して、亡くなった坂本龍一さんの「小池知事への手紙」を紹介して、都知事になって「都民投票」を呼びかけると表明、公約に追加した。
LIN-Netでは「住民自治とコモンの再生」を掲げて、何度も議論してきた。東京都知事選挙という巨大なステージで、政策的に重要だ考えてきた「コモンとしての緑の再生」を軸に、重要な政策が蓮舫さんから発信されている。「介護で働く人の雇用条件の底上げ」も、そのひとつだ。自治体が直面している高齢化社会と人手不足、全産業平均よりも低い賃金を解決するためには、東京都と共に「介護で働く人」の住宅支援と賃金引き上げを思い切って推進していく必要がある。
小池知事と蓮舫さんの「子育て支援」は重なる点もあるが、知事が現金給付を気前よくふるまう「子育て支援」であるのに対して、「若者支援」が切り札だと蓮舫さんは強調する。非正規雇用と格差社会の中で、希望を奪われ、将来設計を持てない若い世代に、暮らしの土台を支援して「子育て可能な住宅条件」を提供すること、そして賃金を底上げすることだ。すでに、親世代が減り始める中で若者支援は迂回路のように見えて、ど真ん中の政策だ。
新自由主義と復古主義の言説が、若い人やサラリーマンを捉えている。これは、フランス総選挙を見ても世界的傾向だ。一方で、大企業の自由な活動ではなく、人々の自由時間を回復し、誇りをもって働ける労働環境を掲げる左派連合も躍進している。都知事選挙の議論の中で、2000年代の「自民・民主」の2極構造とは異なる「新自由主義の末裔たち」と「コモン再生の仲間」が向き合う政治構造へと転じるように、議論を深めていきたい。
「地方主権」を徹底した財政の再構築を。掲示板対応で都選管は猛省を。
LIN-Net世話人 多摩市長 阿部裕行

東京都の財政規模は一般会計に特別会計や公営企業会計を含めると2024年度で約16兆5千億円とスウエーデンなどの国家予算とほぼ同じという大変な規模となっています。東京都では特別区の自治体と三多摩地域の自治体とでは歴史的、財政的に総合交付金はじめ上下水道、清掃、交通など大きな格差があります。
特に新型コロナウイルスの渦中では、特別区である23区を含め保健所を設置している自治体と多摩地域はじめ保健所を持つことの出来ない自治体とで、激しい情報格差が生じ、保健所を持たない自治体は市民の命を守れないという極限状態が発生しました。都と市という対等な自治体でありながら個人情報保護という厚い壁を崩すのに1年以上かかりました。
「学校給食の無償化」についても、財政規模が大きい特別区は自前で実現できているにも関わらず、都は2分の1補助というスキームで東京都の全市区町村に対して学校給食無償化を迫りました。中学校など学校給食をまだ実施できていない自治体や財政的に厳しい自治体、また、自治体により優先順位も違うことから、窮地に追い込まれた自治体も現れました。東京都は各自治体の学校給食の現状や財政状況を把握し、どの地域に住んでいても平等に支援を受けられるよう丁寧に政策調整すべきです。
本来、2000年に地方分権一括法が施行され、対等・平等の「地方の時代」が来るはずでしたが、現実は国、都における中央集権化がより進み、ふるさと納税という美名のもと、官製通販による高額納税者への合法的脱税を促すお化けのような仕組みが出現するなど、地方自治も税制も羅針盤なき航海、まさに漂流状況です。ここに地球沸騰化です。一刻の猶予もありません。
私は、「人権」「環境」「平和」を基軸に、現在、4期目の多摩市長として市政運営を担わせていただいています。どの政党からの推薦や支持を受けず、完全無所属として選挙を闘い、二元代表制のもとでの市議会で議決をいただき、市民の皆さんとの対話を大切に「市民主権」のまちづくりに全力を尽くしています。
また、多摩市は、東日本大震災での東京電力福島原子力発電所での未曾有の大事故を受け、国内では唯一、核兵器の廃絶とともに脱原子力発電を盛り込んだ「非核平和都市宣言」を宣言した自治体です。東京都では、初の「気候非常事態宣言」を行い、無作為抽出の市民や多くの中・高校生が参加した「多摩市気候市民会議」を開催しています。
さらに、「ジェンダーギャップ報告書」で15年間連続トップのアイスランドとの交流に力を入れ、本年6月17日の建国記念80周年にはグズニ・ヨハネソン大統領からビデオメッセージをいただき多摩市YouTubeでご覧いただけます。
私は、東京都でも「地方主権」による徹底した財政の再構築、市民自治に根差した「市民主権」を進める中で「多摩格差」のない未来が見えてくると考えています。
合わせて、今回の都知事選挙で候補者でない者への公営掲示板スペース売買といった公選法の立法趣旨に反する目的外利用を是認したことは民主主義の破壊に手を貸すものであり、東京都選挙管理委員会には猛省を促したい、ことを申し上げます。